教養

2022年までの世界経済の景色

最も信頼されている経済の発展を図る指標としては、まずGDPが挙げられます。世界を数字で理解するために、本記事ではまずGDPを複数の視点から見ていきます。直近約60年間の世界のGDP合計の推移のグラフは下記のようになっています。

THE WORLD BANKからデータ集計

1960年時点では1.39兆USドルだったGDPは、2021年現在では約70倍の96.5兆USドルにまで膨らんでいます。今後も宇宙関連、メタバース、先進的な医療技術、インドやアフリカのような人口の多い途上国・エリアの発展といった様々なメガトレンドに支えられて世界経済は発展していくことは予想されますが、それらの要素がどの程度経済にインパクトを与えるかということは別の記事で取り上げるとして、ここでは過去を遡ることにしたいと思います。

改めて1つ目のGDP推移のグラフを見ると、傾向が変わった時期がいくつか浮かび上がってきます。①1980年、②1985年、③2001年、④2008-2009年、⑤2015年、そして⑥2020年。これらの時期にはいずれも経済に大きなインパクトを与えた出来事があった時にあたります。ただし、世界の経済統計を見るときは基軸通貨であるドルでの集計となるため、ドルの強弱の影響を非常に大きくなります。ドルが弱い年のGDPデータは実態以上に大きく、逆にドルが強い年にはGDPは実態以下に見えてしまうため、あくまでアメリカを中心とした経済の歴史を見ていくことになることはご留意いただきたいです。

世界経済の歩み

1980年 第二次オイルショックの時代

1979年に国民が独裁政治を排除するために実行したイラン革命がきっかけとなって需給が逼迫したことで起きたとされる第二次オイルショックは、その後数年間にわたり世界経済を停滞させました。このとき原油価格は3年で2.7倍に急激に上昇したことで、物価も上昇し、インフレを抑えるために金融引締政策が行われたことで世界の経済も冷え込んだとされています。2022年現在も物価上昇を抑えるために各国中央銀行が金利を引き上げており、この頃の状況と酷似しているとも言われています。ちなみに第二次オイルショックは日本のエネルギー政策にも影響を与えており、このときから国家の石油備蓄が始まったりしたり、省エネを推進したりと長期的には日本ではいいこともあったようです。(経産省の記事参照

1985年 世界が協調して経済成長を目指す時代

1985年から2000年頃にかけては世界が平和を取り戻し、経済を緩やかに発展させた時代だと言えたようです。原油価格が落ち着き物価が安定したことで設備投資や個人消費が世界的に回復しました。1989年にベルリンの壁は崩壊し、1991年には米ソの冷戦が集結。ヨーロッパに目を向けると1986年にはスペイン、ポルトガルがECに加盟し、後の1993年にEUが発足することになります。ただこの時代は日本にとってはプラザ合意に始まりバブルが崩壊した時代でもあったため、よかった時代とは言い難い。ただ世界の潮流としては総じていい時代だったと言えるのでしょう。

2001年 ITバブルの崩壊と中国の台頭

2001年から2008年の間で世界のGDPはおよそ30兆ドル上昇しています。さらに中国がドイツの経済を上回り引き離して経済大国第3位に躍り出たのも2007年から2008年にかけてのことです。では中国がこの間のGDP30兆ドルの成長の大半を占めたかというとそうではありません。中国は2001-2008年で3.2兆ドルほどの成長を見せており、確かに貢献度は高いのだが実際には米国の金融政策の影響によるドル安進行により、世界経済全体が大きく伸びたように見えているだけです。

https://www.macrotrends.net/ からデータ取得し作成

2000年に起きたITバブル崩壊後、アメリカは政策金利を6%後半から1%台まで引き下げました。これによって、市場での資金調達が容易になりITバブルの危機から脱し、景気は回復したのですが、金利の低下によってドル安が引き起こされました。これが世界のGDPに伸びに寄与したわけです。2001年以降のアメリカの好景気を底上げしたもう一つの要素として2001年に開始したサブプライムローンがあります。低属性の買い手でも住宅を購入することができるようになったことで、アメリカの住宅着工件数は右肩上がりになりましたが、無理な貸付けにはやがて限界が訪れ、リーマンショックを引き起こすこととなりました。

2008-2009年 リーマンショックと量的金融緩和政策

2008年から2009年にかけて、世界のGDPは3.3兆ドルという巨額の減少に転じました。当時、自身は学生だったため社会で何が起きていたのかを身を持って理解していた訳ではないですが、異例の事態だったことは様々な検証文献や経験者の話を見るに想像に難くありません。前述のサブプライムローンの問題が顕在化したことが引き金となり、リーマン・ブラザーズ破綻後の世界の混乱に到るまでの顛末をまとめてリーマンショックと呼ばれているわけですが、このときはアメリカだけではなくヨーロッパへも影響が波及したことで、世界各国の経済成長率が低下し、GDPが減少に転ずるまでのことになったと考えられています。

この危機を脱するために世界各国の中央銀行は量的金融緩和に舵を切りました。アメリカだけで見ても、08年11月から10年6月までの第1回(QE1:1兆7250億ドル)、10年11月から11年6月までの第2回(QE2:6000億ドル)、12年9月から13年12月の第3回(QE3:1兆1800億ドル)と、3段階に分けて市場に大量の資金を投入しています(詳しくはMETI資料を参照)。これにより、アメリカのマネタリーベースは最大で3.2兆ドル増加しています。日本、欧州はじめ世界各国で同様の政策が取られたことで、世界恐慌以来の金融危機を免れて世界経済は再び成長を続けました。

FRED Databaseから作成

このときアメリカはゼロ金利政策も同時に実行しています。大規模な金融緩和に加え、ゼロ金利政策によってアメリカと各国の金利差がなくなったことで世界から見たドルの魅力度が下がり、2011年のDXY指数は過去最低を記録しました。ドル円が80円を切ったのも2011年のことです。ちょうどこの頃は日本では震災と民主党政権が重なった頃であり、民主党は円高政策を取っていたかのように論じられるのを巷でたまに見かけますが、実際には民主党政権と円高の因果関係は弱く、米国経済の数字を見るとリーマンショックを受けたアメリカの金融政策の影響が大半を占めていたものと推察されます。

2015年 急速のドル高進行と中国の経済成長の減速

2014年から2015年にかけてはGDPがマイナスに転じていますが、これはドル高と中国経済の減速が大きな影響を与えたものと思われます。まずドル高については、DXY指数で見てもいいのですが多くの日本人にとって感覚的につかみやすいドル円の推移を見てみましょう。2014年から2015年にかけて約20%ほどドル高が急速に進行したことが分かります。これはアメリカがリーマンショックから続けてきた金融緩和とゼロ金利政策を終了したことによるものです。急激なドル高が進んだ時期にGDPがドルで集計されたことで前年に比べて下振れてしまいことが、GDP成長率がマイナスに転じた1つ目の要因と思われます。

もう一つGDP下振れとなる要因としては中国の景気減速がありました。2010年に日本のGDPを超えて世界第二位の経済大国となった中国はその後も急速に成長し続けていたが、2015年に成長率の低下について多く報じられました。2015年時点の世界のGDP構成比を見るとアメリカは24.2%だったのに対して、中国は14.7%を占めるまでになっており、中国経済成長の減速は、中国と貿易取引の多い周辺国や資源国にも大きな影響を及ぼしたのでしょう。その当時の状況については、METIのレポートでも記載が見られます。

2020年 Covid-19

Covid-19が世界的に流行したことをきっかけに世界の人々は行動規制を強いられることとなりました。その状況を受けて世界各国の中央銀行は再び大規模な金融緩和政策を取ることになります。人の移動がなくなったことで、事業ドメインによっては壊滅的な打撃を受け、その影響は2022年末の現時点でも尾を引いているように感じられます。2022年に入ってからの米国、欧州の中央銀行の利上げ転換、2021年末までの金融バブルからの2022年の株価低迷、為替市場の乱高下、ロシアウクライナ戦争、物価の高騰など、世界経済の混乱が収まるにはまだ時間がかかりそうな印象です。ただ過去から現在まで振り返ると、世界は何度も経済危機を乗り越えてきており、Covid-19の危機も脱し再び経済が成長していくことは自明にすら思われるため、未来は悲観しすぎることなく捉えていきたいところです。

世界経済の現在

2022年現在の経済大国1位はアメリカ、2位中国、3位日本

2022年の正式なデータは数ヶ月に各国から発表されることになりますが、大きな構成比は2021年と変わらないと思われます(ドル高進行でGDP成長率は影響を受けることは予想されますが)。その前提で、2021年のGDP上位国のランキングを眺めてみると、世界のGDPの80%がこの上位20カ国から生み出されており、さらに米中だけで見ると世界の42%のGDPを生み出しているというのが世界の現状ということが分かります。

THE WORLD BANKのデータから集計

続いて、主要各国が世界のGDPに占める比率をトレンドとして見たものが下記のチャートです。こちらからは、アメリカも含めた先進国の比率が小さくなっており、対して中国が大きく経済成長していることが見て取れます。

過去2000年で世界は大きく変化している

最後にもう一つだけ、私が好きなチャートを紹介しておきたいと思います。確かにここ数十年を見れば中国は急激な成長を遂げており、アメリカを上回ろうかという勢いがあるのですが、過去2000年を振り返ると中国、インドが圧倒的な経済規模を誇り、現在の形のアメリカが存在すらしなかった時代もあったのです。1800年代以降にアメリカのプレゼンスが大きく高まった背景には、文化や国民性、技術、地政学などの複合的な要因があり、中国が一度衰退した後に近年急成長している背景にも同様に複合的な理由が存在しています。

前半で見てきたように、過去の経済政策が現在の政策に影響を与えていることは明らかであり、未来を見る眼を養う上では過去の各国の歴史的な背景から現状のデータを見ることが必要不可欠であると私は考えます。今回は全体観を掴む内容の記事としましたが、今後は世界各国の国別の分析、業界別の分析、政策や金融経済テーマの深堀りなど、様々な記事を発信していきたいと思います。

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